着任のご挨拶

学寮の中庭では、春風かおる満開の桜のもと、おだやかな陽だまりのなか、一人の寮生 が鍵針を自由自在に操り黒いネットを編み挙げている。芝のうえでは甲子園出場の新寮生 が鋭い素振りをつづけ、サッカー少年の新寮生は先輩とボールを蹴り合い戯れている。62 年間桜並木に囲まれた学寮はいつもこのように若い力が輝く春を迎えていたのであろう。 この春は、しかし、世界を覆う疫病によりこの学寮も著しい緊張のなかに置かれている。 学寮に辿り着いた新寮生はまだ8人。一人でも感染したなら保健所の指導のもと封鎖され 消毒されることになるだろう・・・。新米寮長の心には、創設者黒崎幸吉先生の天上にお いてかはたまた生前の蓄積され続けたそれであるのか、登戸学寮へのお護り、お導きを祈 る篤い祈りが響き、小さな祈りは先生の祈りにより力強く増幅され、福音が生き生きと魂 の内奥に明確に感じとられ励まされている。(4月3日の学寮の一光景)

この4月から登戸学寮寮長として着任いたしました千葉惠です。哲学の教育・研究に30 年従事しましたが、「理論は実践により信用される」という先哲の言葉に倣い、テクスト を離れ学生諸君と共に生活することになりました。学生諸君の心身の健康を守りそして希 望をもって社会に飛び立つお手伝いを妻美佐子とともにできればと願っております。コロ ナ騒動による大嵐の船出ですが、創設時寮を囲む枡形山の台形の形姿にノアの方舟が連想 されましたように、新寮生十数名をお迎えしてのこの航海も護られることでありましょう。運 営の基本は黒崎先生以来の伝統です。私どもの外に明確に打ち立てられた福音、罪が二千 年前の十字架上で赦されたことに対する喜びです。何がなくとも天国の新鮮な空気を吸い ながら喜んで過ごし、その姿が若い魂に伝わればと存じます。

本年、学寮は小島拓人理事長を始め理事の方々、職員の方々の献身的な率先垂範のもと に60周年記念行事ならびに修繕事業を企てます。目標を超える多くの方々のご厚志にた だ感激しております。このお支え、期待になんとかお応えできればと心から願っておりま す。

地上の日々の営みではこの共同体も多くの異見に囲まれましょう。しかし、パウロとと もに「一つのこと」即ちこの福音については、それが私どもの外に生じた恩恵であるが故 にこそ誰もが同意でき、人類は大丈夫だという思いに満たされ、この根幹から多くの案件 についても「同じ思慮」に至ることでありましょう。「かくして、もしキリストにある何 らかの援け、愛の慰め、霊の交わり、憐み、そして慈しみがあるのなら、汝らわが喜びを 満たせ。それは汝らが同じ愛を持つことによって、魂を共にかよわせることによって、一 つのことを思慮することによって、汝らが同じことを思慮するためである」(ピリピ2:1- 2)。今・ここで何らかの憐み、慈しみ、援けが生起しますなら、一同、同じ思いが分かちあ われたことへの喜びに満たされることでありましょう。同じ主ご自身が共にいたまうからです。天来の恩恵にあずかりうることを無上の光栄としつつ、主にあって一つのことに思 いを馳せよきお交わり、お導きを賜りえますなら幸甚に存じます。

2020年4月5日
新寮長 千葉 惠

 
スクリーンショット 2019-12-16 11.07.15.png

新寮長プロフィール
宮城県古川(現大崎)市出身、慶応義塾大学法学部政治学科卒業、同文学研究科哲学科修士・博士課程、オックスフォード大学人文学科博士課程修了(哲学博士 D.Phil. in Philosophy)。北海道大学文学部助教授を経て教授、特任教授、現在名誉教授


 
Noborito_dorm_074.jpg
Noborito_dorm_060.jpg
Noborito_dorm_047.jpg